「あの不具合の写真、どこに保存しただろう」「現場で説明した音声メモはあるけれど、ファイル名を覚えていない」。資料が増えるほど、作る時間だけでなく探す時間も課題になります。文章の検索はできても、写真や音声は人の記憶に頼っている会社もあるでしょう。
Googleが2026年10月6日に発表したEmbeddingGemma 2は、こうした検索を考える入口になる技術です。ただし、モデルを入れただけで社内の全ファイルが整理されるわけではありません。何ができる技術なのか、導入前に何を決めるのかを分けて紹介します。
答えを書くAIではなく、探すための手がかりを作る
Googleの開発者向け解説によると、EmbeddingGemma 2は文章、コード、画像、動画、音声を共通の数値表現へ変換するモデルです。この数値表現を「埋め込み」と呼び、意味が近い情報を探すために使います。
たとえば「赤い配管の接続部分」という文章から、ファイル名にその言葉が入っていない写真を候補として探す、といった使い方を検討できます。ここで挙げる例は応用の考え方であり、当社で検証済みの精度や導入事例を示すものではありません。

検索結果の文章を新しく書く生成AIとは役割が違います。埋め込みモデルだけで、見積書を完成させたり、社内規程について根拠付きで回答したりできるわけではありません。検索と回答を組み合わせる場合は、別の処理や画面も必要です。
社内で使うなら、一種類の探し物から始める
いきなり共有フォルダ全体を対象にせず、たとえば「点検写真を探す」「過去の問い合わせ回答を探す」など、一つの用途を決めます。岡崎市や三河地域の製造業なら、設備の写真や作業記録、店舗なら商品の写真や説明資料が候補になるかもしれません。
同じ画像でも、型番の一致を探したいのか、見た目が似た部品を探したいのかで必要な仕組みは異なります。型番や契約番号の厳密な一致は、従来の文字検索と組み合わせた方がよい場合があります。意味が近いことと、同じ製品であることを混同しない設計が必要です。
ローカルで動くことと、安全な運用は別
公式モデルカードでは、端末上での実行を想定したモデルとして説明されています。外部への送信を抑えたい業務では検討材料になりますが、「このモデルだから何を入れても安全」とは言えません。
実際のシステムが使う保存先、外部API、ログ、バックアップも確認します。モデル自体を社内で動かしていても、検索画面や周辺処理がクラウドへ資料を送っていれば、全体がローカルで完結していることにはなりません。権利や個人情報の扱いも別途確認してください。
検索権限は、元のファイルに合わせる
営業だけが見られる資料、人事しか見られない録音などを同じ検索基盤へ入れる場合、誰が何を検索できるかが重要です。元ファイルを開けなくても、候補のタイトルや抜粋に機密情報が出てしまうことがあります。
そのため、検索結果を返す前に利用者の権限を確認する仕組みが必要です。ファイルを削除したとき、検索用の数値データや抜粋も更新・削除されるかを決めておきます。検索用に変換した情報も、公開してよいデータになるわけではありません。
小さな試験では、探せなかった例を集める
試す前に、担当者が実際によく探す質問と、正解になる資料を用意します。「同じ写真が出た」だけでなく、欲しい候補が上位にあるか、別製品を取り違えないか、古い資料を優先していないかを確かめます。
- 日本語の略語や、社内だけの呼び名で探せるか
- 暗い写真、短い音声、図の多い資料を扱えるか
- 型番の違う似た資料が混ざらないか
- 閲覧権限のない資料が候補に出ないか
- 新規追加、改訂、削除が検索結果に反映されるか
モデルの一般的な評価が良くても、自社資料で同じ精度が出る保証はありません。資料の件数だけでなく、確認にかかる時間と重大な取り違えを評価しましょう。
新しいAIを、探しやすい仕事の仕組みにつなげる
最初の試験では、対象資料を必要な範囲へ限定し、改善前に探す時間と、検索後に元資料を確認する時間を比べます。検索が一瞬でも、間違った候補の確認に長時間かかれば仕事全体は進みません。担当者が採用できなかった結果も残すと、次の改善箇所が具体的になります。
検索と対話の役割の違いは、AIチャットボットとサイト内検索についての記事でも扱っています。今回は資料の形式を越えて探す技術ですが、最終的に根拠へ戻れる設計が必要な点は共通します。
社内検索の価値は、珍しい技術を使うことではなく、必要な根拠へ安全に戻れることです。検索結果には元資料へのリンク、更新日、管理者なども添えたいところです。
EmbeddingGemma 2の登場は、文章だけに閉じていた検索を見直すきっかけになります。まずは一つの探し物について、どんな言葉で探し、何が見つかれば仕事が進むのかを整理することから始めましょう。